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第14話

電話もメールもメッセージアプリもすべてブロックされた。 やむなく純太の職場へ向かったがそこにその姿はない。店の人に尋ねても「ああ、松野は暫く店舗には出ないんです」としか教えてくれず、客を装って掛けた電話でも、「スタイリストの指名は承りますがアシスタントは出来かねます」と突っぱねられ、俺は完全に純太を見失ってしまった。 純、ひでえよ。そんなに俺から逃げたかったのかよ。 悔しくて哀しくて、暫くは抜け殻のようだった。あまりに大きな喪失感に、何も手が付かなかった。 半月ほど精神的引きこもりをした後、ようやくまだ何か出来ることがあるのではないかと気を取り直して、中学高校の卓球部関係や繋がりのある奴らに片っ端から電話をし、リスクをおかして実家や日崎家にまで探りを入れた。 純太が通っていた美容専門学校も当たってみたし、純太の好きだったラーメン屋やトレンドをキャッチするために頻繁に訪れていた本屋のファッション雑誌コーナーへは何度も足を運んだ。 可能性は限りなく低いと思いながらもサーファーの集まる海岸で、刑事よろしく写真を見せて聞き込みまでしたが、その行方はようとして知れなかった。 そんな消え方だったから、俺の中の純太は美しい恋の思い出とはならず、いつしか俺を無残に捨てた憎い男に変わっていった。 不思議だったのはいつ来るかいつ来るかと身構えていた純太の結婚話がいつまでたっても母親から流れてこないことだった。 いくら疎遠だといっても、結婚式ぐらいは育ての親の日崎家も出るだろう、仮にそうでなくても報告はいくだろうと思っていたからだ。 『多分もうあそこに帰ることはないだろうな』 純太はそんな風に言っただけだったが、俺が知らないだけでもっと大きな確執があったのだろうか。絶縁状態で音信不通なのかもしれない。 いっそ、『結婚しました』という葉書でも送り付けられれば、一気にとどめを刺して貰えたかもしれないのに、そのある意味宙ぶらりんな状態のせいで、傷口からはだらだらと血が流れ続け、俺は純太への憎しみをただひたすら積もらせていった。 純太が居なくなって俺の世界は一変した。 何もかもが億劫でまわりが色褪せて見える。 大学の建築学科を出たら2級建築士の国家資格を取って大手ゼネコンで実務経験を積みながら1級を目指す。ゆくゆくは地図に残るような大きな仕事に携わりたい。実績が積めたら独立して建築設計事務所を開くのもいいな。 こんな夢物語も純太は「夢見るのはタダだ、どんどんでっかい夢見とけ。それに浩司ならきっとできる」と、決して笑ったりしなかった。向かい合って俺の腿に跨り、両手で頬を挟んで大きな瞳で俺の眼を覗き込む純太にそう言われると本当に出来るような気がしたのだ。 だが、あの時純太の体を抱いていた俺の両腕は空を切るばかりで。そこにはぽっかり空虚がたたずんでいるだけだ。 結局大学を出て二級建築士の国家資格は取ったものの、就職は地元に帰り、以前から声を掛けられていた叔父の小さな建設会社にさして希望も持たずにコネ入社した。 叔父の会社で働いて4年。そろそろ一級建築士取得に向けて準備をせねばならないと分かっていても、社の扱う現場がほぼ二級資格で済む500㎡以下なこともあり、モチベーションが上がらない。 戸建て住宅の建て替えやリフォーム、リノベーションを担当し、淡々と日々を過ごしていた。 その中の現場の一つが偶然実家近くの時田邸で、インテリアコーディネーターの三島を連れて打ち合わせにいった帰りに、あれだけ探しても見つからなかった憎い男を見つけたのだった。

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