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第16話

「痛い、少し力を緩めてくれよ」 手首を掴まれマンションの廊下を引き摺られながら純太が抗議するが、無視する。 駅までの路上で、驚く純太を半ば拉致するように力ずくで自分の車に押し込め、ここまで連れてきた。 鍵を開けるのももどかしくドアを開けて純太を放り込み、わざとガチャンと大きな音を立てて鍵を掛けた。 ようやく離された手首をイテテと言うように眉を顰めて振った純太は、内扉が開いたままになっている室内を見回して、「ここ、浩司の部屋なのか?お前、今、こっちに住んでるんだ」と言った。 ……なんでそんな普通に喋れんだよ。ちょっと久し振りに会った友達みたいに。 それだけで俺の中の黒いものがブクブクと膨れ始める。 返事をしない俺を振り返った純太を睨みつけると、困ったような顔をして少し笑いやがった。カッとなった。 シャツの襟を掴んで、壁にドンとその体を力任せに押し付けた。 「純、笑ってられるなんて余裕だな。お前、俺にしたこと忘れたのかよ」 一瞬、目まぐるしく色んな色がその瞳に浮かんだが、すぐに純太は目を伏せた。 だが再びこちらを見上げてきた目からは、もう先ほどの戸惑いのようなものは消えていた。 「……6年ぶりか。浩司、大人になったな」 はっ、なにしみじみしてやがんだ! 自分との温度差にイライラが募る。 「何処に就職したんだ?建築士になれたか?」 話題を変えて誤魔化そうってか。ふざけんな。今更、俺に関心がある振りなんてすんな、わざとらしいんだよ。 「もう結婚は……してないか、この部屋じゃ。……恋人はいるのか?」 お前がそれを言うのかよ! 腹の中でもくもくと黒煙を上げていた火山がとうとう爆発した。 まだ靴すら脱いでいない純太を寝室へ引き摺っていき、ベッドの上に突き飛ばす。 「おいっ!」 動揺の滲んだ声が嗜虐心を煽った。 体重をかけて押さえ込み、強引にシャツの前を開いていく。抵抗しようとする純太の頬を平手で張った。パンッと派手な音が部屋に響く。 「っ!」 怯んだすきに純太のベルトに手を掛ける。 「やめろ!」 「ふん、何度も抱き合った仲じゃねえか。久し振りに男を味わうのもいいだろ。あー、嫁さんに知られるのが嫌なのか?だったら尚の事、楽しみだ。あの時俺が味わった抉られるような痛みの一部をお前にお返ししてやるよ」 ベルトを抜いて、それで純太の手首を縛ろうと両の手を捕まえに行けば、ばたばたと逃れようとする。そんな華奢な体で俺に勝てるわけないだろ。 「浩司!浩司!聞いてくれ!」 無視して純太の手首を掴むと 「浩司、聞けって」 今度は甘い声で呼びかけてくる。 ふん、懐柔するつもりか。その手に乗るか。 「なあ、浩司」 引っ掛かるものかと思ったのに、その呼びかけ方は突然昔の記憶を引き出した。これは、まだガキだった俺をめいっぱい甘やかしていた純太の声だ……。 「なあ、浩司、ちょっと聞けって。知ってるか?今は男でも強姦罪って成り立つんだぞ?俺はお前を犯罪者にしたくねえよ?お前が俺を抱きたいなら抱かせてやるよ」 真意が分からず、純太を見下ろす。 「いいや、俺がお前を誘うんだ。浩司、セックスしようぜ」 片方の口角を少し上げて笑うその顔は妙に色気があって。はだけた胸と顔が俺と格闘したせいでほんのり上気して赤く、まだ少し荒い呼吸で上下する胸元が僅かに汗ばんでいるのがセクシーでそそる。 「なあ、先にシャワー貸してくれ。日崎の家で色々古いもん片してたから、なんか埃っぽくってさ」 随分と余裕なのが少し癪だが、元々は無理やり犯すつもりで連れてきたわけじゃない。 「ふん、とんだビッチだな。……向かいのドアだ」 ぶっきらぼうにそう言うと、「サンキュ」と言いながら、半分俺が脱がせかけていたボトムをあっさりその場で脱ぎ捨て、風呂場へ向かった。

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