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第19話
夢を見ていた。
夢の中では、俺と純太はまだ恋人同士で、朝が苦手な俺を純太が起こそうとしている。いつもみたいに「起きろー!」と布団を剥ぐのではなく、優しく髪を撫でてくれているから、今日は休日なんだな。
俺は休日の朝の微睡 が好きだ。まだ俺が寝てると思って、純太がデレた台詞を言ったり可愛い事をしたりするから。
ほら、今だって、俺の前髪をかき上げて、そっと額にキスをした。
次はいつものアレ言ってくれるんだろ?面と向かってはなかなか聞けない「愛してる」ってやつ。
「浩司、ごめんな」
ハッとして目を開けた。
真っ暗な部屋の中で咄嗟に今自分がどういう状況なのか分からなかった。
ここは俺のベッドで、さっき俺は純太を抱いて……
跳ね起きて部屋の明かりを点けたが、純太の姿はどこにも無かった。部屋を飛び出したがリビングも浴室も真っ暗で人の気配はなく、玄関ドアは鍵が開いたままだった。
迂闊にも眠ってしまった自分に我ながら呆れるが、一方でどこかこうやって消える純太を予測もしていた。
午前中に調べておいたスパイウェアが上手く働いていることを祈りながら、スマホを立ち上げる。
画面に広がった地図上に引かれている青い線。
地図を拡大するとその先端が現在進行形で動いているのが分かる。青い線のスタート地点はこのマンション。
純太のスマホのロケーション履歴をこっそりこちらへ転送させているのだ。さっき、純太がシャワーを浴びに行った隙にこいつを仕込み、電話番号やアドレスも自分のスマホへ送っておいた。勿論、送信履歴は削除してある。
純。お前はまた上手く姿を消したつもりかもしれない。
だが、もう逃しはしない。
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