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第20話

翌朝、俺は東京行きの列車に乗った。 昨夜、地図上の青い線は東京のある地点で止まり、動かなくなった。ここが純太の家か。 まずは純太の居所を掴むことに成功したと喜んだのも束の間、示された場所が雑多な都市部のビルだったことが不可解だった。 そのビルを検索してみるが、1~3階まではコンビニや飲食店、4階から8階まではウィークリーマンションとなっている。 ホテルならまだ分かる。家は東京ではなく昨夜は一旦泊ってこれから移動するのかも知れない。なにしろ、昨日は俺に拉致られたせいで、何時間か予定がずれ込んだろうから。 いずれにせよ今日は日曜だから、出勤だろう。客商売が土日続けて休むことは難しいに違いない。勤め先の美容院が特定できるはずだ。 住所や勤め先、その他の立ち寄るところ。純太の生活パターンが把握できるぐらいデータが蓄積されてから動く方が確実なのは分かっている。 だが、もしスマホの位置情報をオフにされてしまったり、ウィルスチェックソフトなどでスパイウェアに気付かれてしまえば、純太を見失う。 平日は動けないし、このまま1週間も待つのもな。そんな風に自分で言ってみたが、正直なところ逸る気持ちを抑えられないのだ。 それに、昨日自分は本当に純太を抱いたのか、あれは幻でも見ていたんじゃないのかと未だ信じられないような気持ちで、早く自分の眼でしっかり確認したかった。 かくして、俺はスマホを睨みながら電車に揺られているわけだ。 いったい何をやっているんだ? 例の雑居ビルからなかなか動かなかったポイントは、10時を過ぎた頃ようやく移動を始め、近くの商業施設へ入った。その施設内に勤め先があるのかと調べてみたが、美容院らしきものは入っていない。 そうこうするうちに、こっちが現地に着いた。確かにこの大きな建物の中に純太はいるはずだがどうやって探すかと思案するうちに、コーヒーショップの中で男と向かい合って座っている純太の姿を見つけた。これはツイてるな。 まだこちらの存在に気付かれるわけにはいかないので、純太の背後のかなり離れた席に陣取って次の動きを待つことにした。 それにしても誰なんだあいつ。 スポーツマンぽいしっかりした体つきは座っていても標準よりかなり背が高いのが分かる。年は純太より少し上か?全体的にバリっとエリート臭がしている。 なんだかいけ好かないと感じるのはそのせいだけじゃない。純太を見つめる目が真剣で、だが時折浮かべる表情が、ひどく優しくて。ただの知り合いよりは深い関係に見えるのだ。 おいおい、そんな風に見たって、その男は結婚してんだぞ。女が好きなんだぞ。 いや待てよ?もしかして純太はもう離婚してるのか?それとも、嫁が居ながら男と浮気?でも男に抱かれるのは6年ぶりって……まだ体の関係になる前か? ぐるぐるとそんなことを考えていたら、二人が立ち上がり店を出ていった。自分もそそくさと会計を済ませて二人の後を追う。 商業施設のエントランスを出たところで、二人は立ち止まり、向かい合った。相手の男の方が右手を出すと、純太もそれに応えている。その直後、握手をしたまま男の方が左手を純太の背中に回し、ハグをした。 おいおい、真昼間の街中で……お前はオープン・ゲイなのか!? 二人の体はすぐに離れ、純太は少し切なげな表情で笑ったあと、踵を返して歩き始めた。男は突っ立ったまま、その後姿を見送っている。

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