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第23話
翌朝7時。
寝覚めのコーヒーを飲んでいるとスマホが鳴った。画面には昨日登録したばかりの「品川 忠文」の表示。
朝っぱらからなんだと訝しみながら、応答する。
「朝早くから申し訳ありません。出てくれてよかった。あの、単刀直入にお伺いしますが、山田太郎さんは、本当はコウジさんとおっしゃるんですよね?」
いきなりのジャブに目が覚めた。
「あ、警戒しないでください。別に調べたりしたわけじゃありません。実は、昨日、きっとそうなんじゃないかと思って声を掛けたんです」
「…何故ですか?そして、昨日は黙っていたのに今朝になってそれを言う理由は?」
「昨日は突然で、私もどうするのが最善なのかあの場では判断が付きかねたんです。昨夜一晩考えて、私なりの結論がでたのでご連絡しました」
「結論?」
「はい。松野純太さんの事であなたと話をしたい。急で申し訳ないですが、時間を作ることはできませんか?勤め先は○○県内ですか?私が最寄りまで伺います」
「え、わざわざ?品川さん、お仕事が終わってからですか?」
「いえ、今日は会社を休みます。実は、あまり時間が残されていないんです」
「時間が無い」ではなく「残されていない」という言い方が不穏に感じる。
詳細は会ってからと言うが、品川の話しぶりからとても大切な話であると窺え、今日は客とのアポも無いので風邪をひいたと欠勤することにした。
最寄りではなく途中のターミナル駅で品川と落ち合い、駅ビル内の喫茶店に入った。
今日の品川はスーツにネクタイをきっちり締め、手にはビジネスバッグを持っていかにも出来るサラリーマンといったいで立ちだったが、目が少々充血していて、隈もある。一晩考えてと言っていたが、徹夜でもしたのだろうか。
俺は改めて友永浩司と名乗った。
「友永さん、昨日はナンパを装ったりして申し訳ありませんでした。咄嗟にあなたとの連絡手段を手に入れる方法をあれしか思いつけなくて。
ナンパなんてしたことが無かったので挙動不審になってしまい、怪しいやつだと思われたでしょうが、あなたの為にもどうか私のことを信用していただきたい。時間が無いので今日はお互い一切嘘や腹の探り合いは無しでいきましょう。
早速ですが、単刀直入に伺います。友永さんは松野さんの学生時代からの恋人だったんですよね?」
「ええ。別れる前はほぼ同棲状態でした」
「友永さんは今、ご結婚されていますか?」
首を横に振ると「じゃあ、恋人は?」と畳みかける。それにもノーと答えると、「そうですか」とふうと息を吐いて俯いた。そして、コーヒーで唇を湿らせると、話し始めた。
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