「あなたの前から姿を消したのは、彼も早急に手術をする必要があったからです。彼女も日に日に悪化していく体調を私に晒すわけにはいかなかった。彼らには私やあなたをゆっくり説得している時間が無かったんです。だから、互いに恋人役を演じて早急に幕を引こうとした」 そこまでして、自分たちの恋人の未来を考えた二人に、胸が苦しくなる。 「でも、品川さんは真実を知った…。どうされたんですか？」 「彼女は辞令が出たらドイツへ行ってくれと泣きましたが、私は自分の生き方は自分で決めさせて欲しいと言いました。 結局、辞令を蹴り彼女の傍に居ました。半年後、彼女の家族と一緒に最期を看取りました」 「そうですか…」 「勿論、どうすべきかよく考えました。同情だけで安直に辞令を断ることを彼女が望むはずもないですから。ですが、一生を預けようと思った相手の命の火が消えかけているのに、とても海外へ行く気になれませんでした。それで出世コースを外れたとしても後悔はしないと思えたので、そうしました。 その結果、次に行かされたのは社内的には重要度の低い国でしたが、あの時の自分の判断を今でも悔いたりはしていません。 ただ、私と友永さんでは状況は違ったと思います。まだ二十歳前の青年が家族のいない彼の全部を背負うのは荷が重すぎる。だから、当時の彼の判断も理解できましたし、本当にこれでいいのかと彼に念は押しましたが、私からあなたに連絡を取ったりはしませんでした」 「ああして無事にいるのだから純太の手術は成功したってことですよね？それでも俺の前に姿を見せなかったのは、その5年生存率って言うのが50％だったから？ え…でも、今こうやって品川さんが俺に話してくれているって言う事は…」 恐ろしい推測に動悸が早くなる。 「彼女が亡くなり、その後、私も海外赴任していたので、彼とは連絡を取っていませんでした。半年前に帰国して、彼女の命日に彼女の墓前で偶然再会したんです。そして、彼が癌を再発したことを知りました」 ドクンと心臓が音を立てた。