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第28話
「6年前の手術は成功していたんです。ただ、癌細胞は血流に乗って全然違う部位へ流れ着き増殖を始めることがあるんです。彼の場合はそれが脳腫瘍となって現れたんだそうです」
「脳腫瘍…」
「激しい頭痛に加え、昏倒したり記憶障害がでたりして日常生活も差し支えはじめたので開頭手術を受けることになったのだそうです」
開頭手術と聞いただけで身が竦む。
「せ、成功率は・・・低いんですか?」
声が掠れて震えてしまう。
「成功率は40%。ただ・・・腫瘍が出来ているところが非常に難しいところで、開いてみなければ癒着具合がはっきりせず、摘出が上手くいっても障害が残る可能性が高いのだそうです。それでも放置すれば益々腫瘍は大きくなるので、手術せざるを得ない。だから、彼は手術に先立ち、身辺整理を始めたんです」
身辺整理?
「万が一、自分が死んだり、大きな障害が残った場合に備えて、司法書士事務所と任意成年後見人契約を結んで、後の処理を託したんです。住んでいたアパートも引き払い、今はウィークリーマンションに居ます。
一昨日彼が地元へ戻ったのは、叔父や叔母に自分の病気は伝えずとも、最後になるかもしれないので、育ててくれた礼を言いに、あと自分の残してきた物を処分しに行ったんです」
ああ、なんということだ!
純太はどんな思いで地元に戻ったのか…
知らなかったとはいえ…それを俺は…なんてことをしたんだ!
頭を抱えて呻きそうになる。
「昨日、私と会ったのは、私にも託すものがあったからです。
彼の腫瘍が脳の記憶を司る部位に及んでいるので、手術をすれば大きな記憶障害が残る可能性もあるのだそうです。だから、これを預かって欲しいと言われたんです」
そう言うと、彼はビジネスバッグを開き、中から小さな半透明のプラスチックケースを取り出した。中に更に小さい黒くて薄いものが入っている。
「マイクロSDカード?」
「『もし、術後、記憶が消えていなければ、これをそのまま返して欲しい。消えてしまっているようならこれを処分して欲しい』と、彼は言いました。その判断と見極めをするために、本来なら家族でもない私は彼の手術の結果や内容を医師から聞くことが出来ませんが、彼は委任状を作り、私も病院へ赴いて医師や病院に病状を聞けるように段取りを整えました」
「品川さんはそれの中身は知っているんですか?」
「これと同じものが松野さんのスマホに入っています。彼は手術の前に自分のスマホからはそのファイルを削除するそうです。私にSDを託すにあたって、面倒な機密文書なんかじゃないと説明するために、サンプルをいくつかスマホで見せてくれました。中身は全て、6年前までのあなたの写真でした」
!!そんな…俺の写真を純太はずっと持ち続けていたというのか!?
昨日、俺がコウジだと気付いたのはその写真のお陰で、6年の経過は大きかったが左目元のホクロが決め手になったと品川は言った。
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