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第30話 <第6章>
「友永さん!こっちです」
病院のエントランスで待っていてくれた品川が大きく手を上げ合図をする。
タクシーを飛び降り会釈を交わすと、そのまま二人で早足でエレベーターへ向かう。
「間に合いますか?」
「前のオペが少しおしているそうです。看護師さんにはどうしても会わせたい人がいると言っておいたので考慮してくれるといいのですが」
豪雨の影響で列車が途中で止まってしまい、大幅に到着が遅れたのだ。
エレベーターのドアが開くのももどかしく二人で半ば駆けるようにして病室へ急ぐ。
「あの突き当りの部屋です」
品川がそう言ったまさにその時。病室のスライドドアが開き、白衣の男性看護師がベッドを曳きながら出てきた。
「待ってください!」
もう一人の女性看護師と二人掛かりでベッドを別の方角へ押していこうとしているところへ、品川が呼び止める。それに気付いてかベッドが止まる。
ここが病院だということも忘れて、駆け寄った。
ベッドの上の、あまり顔色の良くない純太が目を大きく見開いた。
「浩司!?なんで…」
「嘘つき純太、捕まえたぞ。もう、かくれんぼはおしまいだ」
途端に大きな両目が潤み、純太の唇が震え始めた。
背後で品川が看護師たちに「どうか少しだけ時間をください」と頼んでくれているのが聞こえる。
手を伸ばし、指先でそっと純太の頬に触れた。両目を覆っていた水の膜が一気に膨れて、目尻から外側へ零れていく。
「手術、頑張れ。ここで待ってるよ」
「…浩司…怖えよ。俺、全部、お前のことも忘れてしまうかもしれない…」
また目尻に大きな粒が転がっていく。
公園で初めて一緒に遊んだ日以来の弱気な涙。
だけど、俺はもう何を言っていいか分からず途方に暮れるガキじゃない。
「きっと大丈夫だ。万が一忘れてしまったとしても、もう一度純に好きになって貰えるように、俺、頑張るから」
本当は俺も、純がきれいさっぱり俺の事を忘れてしまったらと思うとちょっと怖い。
だが、それよりも恐ろしいのは純がこの世界から消えてしまう事。きっとその喪失感を埋める代わりのものは見つからない。
どんなカタチででもいいから生きていて欲しい。
だから、必ず戻ってこい。
「あ、ちょっと!」と男性看護師が慌てるのを無視して、こっち側のベッドの柵を下げる。
「上手くいくおまじない」
そう言って震える唇に口付けた。
このキスから俺の気持ちがちゃんと純太に伝わることを願いながら。
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