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第2話

 「失礼します、新聞部の山田です」  「ああ、待っていたよ。僕はどうすればいいのかな」  「コメントは僕の方で、取らせていただきます、先に写真を数枚撮らせていただいて良いですか?田中?田中、挨拶はどうした」  「たっ、たなくわっですっ、しゃ、写真をと、撮らせていただきますっ」  自分の名前さえまともに言えない。右手と右足が同時に前に出る。立ち上がり近寄ってきた大河内からは獅子の圧を感じる。まるで蛇に睨まれた蛙のように動けない。くらくらと目眩がしてとても目を合わせられない。  「そっ、そこに、た、たって、立ってください」  落ち着かない、レンズを通さないと顔をまともに見ることもできないのだ。カメラを構えるとようやくいつもの会長が目の前に......。  あれ、いつもの会長?何かが違う。  レンズ越しに隣の建物から見つめていた会長は皺ひとつないアイロンのきいたシャツを着ていた、ネクタイはまるで絵に描いたように歪みがない。それなのに今日に限ってシャツに変な皺がある、そしてネクタイがずれている。  「会長、ネクタイがずれていますよ」  不思議なことにレンズ越しならはっきりとものが言える、会長は直接見てはいけない存在なのだろう。獅子じゃないメデゥーサなのだ、直接目を合わせると石に変えられてしまうのだろう。  「少し待って締め直す」  ネクタイを直そうと緩めた首元に桜色の痕を見つけた。獅子に噛みつく悪魔がいるというのだろうか。  「あ」  「なんだ?」  「いえ、なんでもありません」  「窓際だと逆行になるか」  「大丈夫です、フラッシュを使えば綺麗にとれます」  カメラの絞りをていねいに調整する、会長を世界一美しく撮ることそれが自分の使命なのだと田中は思った。最高の一枚を撮るために連続でシャッター音を響かせた。  「まだ撮るのか」  苛ついた声で大河内が声をかけてきた。  「田中、もういいだろう」  あまりに続くシャッター音にさすがに山田も声をかけ制止してきた。  「大河内会長、ありがとうございました」  「いや。次はコメントか、じゃあそちらへ移動するよ」  何故か上気した顔の会長を見て田中の緊張がマックスになる。  「先輩、写真チェックするので失礼します」  山田を生徒会室に残し田中は新聞部の部室へと足早に戻った。撮ったばかりの写真をパソコンにダウンロードする。一枚一枚丁寧にチェックしていくと、撮り続けるにつれ会長の顔が少しずつ赤くなり、瞳の色が薄くなっている。瞳孔が開いて行っているのだ。そしてズボンの前が少しずつ張っていくのが分かった。何に興奮しているのだろう、些細な違いだが田中は見落とさなかった。  「え?これって」  田中の頭に面白い仮説が立った、それと同時に会長をもっと撮りたいと、このカメラで凌辱してやりたいと頭の中はいっぱいになってしまった。

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