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第6話
人気の無い場所に引きずられて、ボロいラブホテルの裏口にたどり着いた。
「ここでいいだろ」
「ああ。たまんねぇ匂いだな」
「んんッ!!」
ラブホテルに連れ込まれそうになったその時、
「ぐあッ!!」
男の一人が思い切り後ろに吹っ飛んだ。
「ひぇっ!?」
もう一人の男は蹴り飛ばされ、前方に派手に吹っ飛んだ。鉄平は男達の腕から解放され、その場にへたり込んだ。
「タマ!!」
「……しろう?」
志狼が鉄平を抱き上げた。
「大丈夫か!?」
「ど、どうして?」
「今朝、お前の匂いが少し違う気がした。平気そうにしてたけどずっと気になっていたんだ。仕事を早く切り上げて出たところだった」
志狼は強く強く鉄平の華奢な体を抱きしめた。
「……間に合ってよかった」
「あ……」
走って来たであろう志狼の汗の匂いに鉄平はゾクッとした。
「し、しろう」
志狼が顔を上げて鉄平を見る。エキゾチックで魅力的な青い瞳で。
「あ、ああ……」
鉄平は番がどんなものかよく分かっていなかった。
好きだということと、何が違うのか。
今、わかった。
「しろう」
鉄平は細い指で志狼の髪を掻き抱き、引き寄せ口付けた。唇が触れ合う瞬間、電流が流れたようにびりびりと体が痺れた。
心だけじゃない。
肉体も、細胞のひとつひとつにまで。
志狼という存在が組み込まれていくのが分かる。
まるで自分の心臓のように、志狼の鼓動を感じる。
番のαが死ねば、Ωも死ぬと聞いた。
今この瞬間、鉄平はその理由を身を持って体感していた。
志狼の存在は今、鉄平の心臓そのもののように感じている。志狼の胸の鼓動は完全に鉄平の鼓動とリンクしていた。
志狼の心臓が止まれば、鉄平の心臓も脈打つのを止めるだろう。
心ではなく、本能でそう感じていた。
もう自分は志狼なしでは生きてはいけない。
当然のようにそう感じた。
心も体も胸の鼓動も、自分の全ては志狼に支配されている。
それでいい。それ以外はあり得なかった。
「しろう、しろう……」
離すものかと必死にしがみ付いてくる鉄平の匂いに志狼は自分の鼓動が跳ねあがるのを感じた。
「タマ。俺が番だな?」
「しろう!」
返事の代わりに、鉄平は再び志狼に口付けた。
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