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第4話

「涼、昨日大丈夫だったか?」 大学で、糺が涼のシャツの襟を摘んだ。途端に涼は、バッと自分の首を手で押さえる。 「…何が?」 背中の傷を知られる訳はないと思いながら、涼は聞く。 「いやだから…撮影で強く噛んだから、跡になってないかなって。だからシャツのボタン全部止めてるのかと」 「ああ、大丈夫だよあれくらい」 オモチャの歯で噛まれたくらい何でもない。糺は結局強く出来ず、跡にも残っていない。涼が襟のあるシャツを着ているのは、背中の鞭跡を見られないようにするためだ。 糺が両手の親指と人差し指をくっつけて四角を作り、カメラのフレームを覗くように涼の顔を見た。 「お前…顔腫れてない?左側だけ」 「え、そ、そう?」 ー糺は鋭い。 あの男は、顔への平手打ちなど周囲に気づかれかねない事は普段はしない。涼もいつもの事では無いので、冷やすなど対応をしていなかった。 「やっぱ腫れてるよ」 糺が涼の頬に手を添える。互いに見つめ合う形になった。自分の頬に添えられた糺の右手のその優しさに、涼は無意識に左手を重ねてしまう。 数秒、その姿勢のままでいた。 「…ほんとは殴られたんだ」 「えっ?」 涼は向きを変え糺の手から離れた。 そして今の言葉を口にする。鋭い糺を誤魔化すのは無理だから、少しだけほんとの事を。 「義父(ちち)とちょっと言い争いになって、それで一発ビンタを」 「へーでも、凄えな。大学生ともなればオヤジの方が弱かったりするじゃん」 「…それこそ大学でわざわざ言う場面も無かったけど、オヤジつっても母親の結婚相手で年下だからまだ若い。40くらいだよ」 「ああ、そういう事か。でも…大丈夫なのか?手をあげるとか…まさかDVとか」 涼はほんの一瞬言葉に詰まる。 「…そんな奴だったら別れてるよ」 「そう、そうだよな。お前は全然家族の事話さなかったから、ごめん、なんか勘ぐっちゃって」 「…話すネタもない、普通で。義父(ちちおや)は優しくて裕福で、母親は幸せみたいだ。弟がいる事は話しただろう」 「うん」 「弟は義父の連れ子で、結婚した時10歳だった。母さんにも懐いてて、ゆったりした環境での子育てを楽しんでる。俺を育てる時は働き尽くめだったから」 糺は笑顔を見せた。 「そっか、お前が困ってなきゃいい。詮索するつもりとかじゃないから」 涼も笑顔を返す。 「わかってるよ。ありがとな」

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