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第5話

「兄さん、学祭はいつだった?友達と行くつもりなんだ」 義理の弟、翔也が聞いてきた。 「受験生なのに、いいのか?」 「1日遊ぶくらい大丈夫」 翔也は明るい性格で中3となった今も反抗期的なものも無く、涼や母の由美と気軽に話す。 何事にも物怖じしないところは、あの男に似ていると思わせるが、慕ってくれる弟は可愛い。 「涼のサークルで撮った映画も上映するんでしょう?お母さんも真紀さんと行くわ」 母の由美も話しに入ってくる。 涼は慌てた。現部長の原田が撮ったメイン作品とセットで上映するミニ映画の方を見られたら、女装姿がばれる。 「映画は、面白い系じゃないよ。退屈じゃないかな」 「えーでもやっぱり見たいじゃない。ねー真紀さん」 「はい、是非」 お手伝いの真紀がニコニコと言う。 母親の由美は44歳となった今も可愛い。それは見た目だけで無く天然な性格も指し、辛辣に言えば頭のネジが緩い。 由美の実家は貧乏子沢山、高卒で東京に働きに来た。そこで医学部の大学生と出会い、22歳で涼を生む。 お腹に子どもがいると告げた時、相手は大学卒業直前。落ち着いたら迎えに来るという言葉を信じ待つ由美の前に現れたのは、お金を持った代理人。 「お金は受け取って、あなたを産む費用にしたの。きっと家の人に反対されたのよ、お母さんとの結婚。あなたのお父さんも辛かったと思う」 由美ははっきり言わないが、お金は堕胎するよう言われた費用だったのだろう。涼の父は、元から由美を大学に通う間だけの相手と考え、卒業後は地元でどこかのお嬢様と結婚しているに違いない。 義父とは、由美が清掃員として社長室の掃除をしていた時、脳貧血を起こして倒れたのをきっかけに知り合った。 連絡が来て涼が迎えに行った時、由美は社長室の豪華なソファに横になっていた。 「君が息子さんだね。病院にお連れしようと思ったけど、お母さんが息子を待つとおっしゃるので」 その時涼は後に義父となる神坂武範(かみさかたけのり)と初めて出会った。清掃員である由美と当時まだ高校生だった涼にも親切、丁寧な態度。社長というにはまだ若く30代半ば、背が高く精悍で格好いい。カリスマ性があるとはこんなタイプかというような、笑顔が魅力的で話す言葉や態度が人を惹きつける。 「お母さんは何か口に入れた方がいいね。デリバリーを頼もう。君も一緒に」 飲み物とサンドイッチが届き、その間、神坂武範は涼に色々話しかけてきた。 帰りは社長専用車で家まで送られ、翌日には見舞いの花が届いた。由美が武範に夢中になるのに、時間はかからなかった。

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