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第9話

涼は糺から渡された鍵を握りしめ、意を決した。 義父の武範の書斎をノックする。 「卒論を仕上げるまで呼び出しに応じない」 「随分横柄な宣言だな」 涼は出来るだけ平静を装いながら言い切った。 「俺が大学に通う支援は条件の一つだろう。卒論完成に協力するのも支援の一環だよ、義父(とう)さん」 卒論を仕上げなくてはならないのは事実だが、以前から準備をしておりスケジュール的に困ってはいない。 ただもう、武範に抱かれるつもりは無かった。 5年間、性奴隷のように身体を凌辱され続けて来た。母を泣かせたくない、翔也に寂しい思いをさせたくない。二人の幸せを願い耐えて、耐えて…。 でも、密かに想い続けていた糺から告白された。母と翔也、二人の事を考えると胸が締め付けられる。でも、でも愛する糺から差し出された手を振り払う事はもう出来ない。 ー就職の内定は貰った、母一人養う事は出来るだろう。生涯かけて母を大事にする。翔也は高校生になり、行動範囲も広がる。翔也が承諾してくれれば、外で会う事だって出来る。 糺が渡してくれたワンルームマンションの鍵は、涼に、自分の幸福を追う勇気をくれた。

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