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第6話
朝焼けが終わり、朝日の晴れやかな日差しが狭い部屋に差し込み始める。外からはガヤガヤとした活気ある人の声に加えて車の通る音が聞こえるようになった頃、ガットの金色の瞳が瞬きをしながら現れた。
「んーー、くぁ…っよく寝た」
ガットがベッドの中で伸びをして、大きな欠伸をする。小さめのベッドから腕がはみ出て壁にぶつかる。ガバリと上半身を起こすと身体中に付いた体液が皮膚をひきつる感覚にガットは己の体を見た。
「うあ、やべ。なんかカピカピになってんじゃん。ちゃんとシャワー浴びなかったからなぁ…、…?」
皮膚に張り付いて乾いた体液をポリポリと掻いて落としながら隣に寝ているはずのフィオレオの方も確認しようと視線を向け、不意に怪訝そうにガットの顔が歪んだ。
「…お前…すっげぇ目ぇ血走ってっけど…、どうした?」
「…はは…興奮しちゃったんですかねぇ…」
ベッドの上に仰向けで横たわり、まるで祈るかのように両手を握りながら目をギンギンに開いたフィオレオが乾いた声音で返す。
白目部分は血管が浮いて真っ赤になっている。
(全っっっ然、眠れなかった…っっっ)
ガットの寝言を聞いた後、結局ぐるぐると卑屈な思考を全開にさせてしまい、眠さが吹き飛んで一切寝ることができなかったのだった。
そんなフィオレオの胸中など露知らず、「へぇ?」とニヤニヤした笑みを浮かべてガットがフワッとフィオレオの腹に乗った。
薄っぺらい白い胸元に散るキスマークを撫で上げながらガットの顔が近づいて耳元に低めの声音で囁かれる。
「昨日のお前…動物みたいで良かったぜ?またシような?媚薬セックス」
ついでにガットの尻がゆるっとわざとらしく腹部で揺れて、温かな人肌の擦れあう感覚に通常より乱れたガットの姿が脳裏によみがえり、ボンッと顔が真っ赤になる。
「…、っっぜひ!!!!」
力強くフィオレオは叫ぶ。が、すぐに口を両手で塞いだ。
(あ、まちがった…っっ)
寝不足のためか理性が働かず、欲望のままに答えてしまう。
本当は、己の欲求だけに忠実になってしまう行為は嫌なのだが、自分も所詮ただの男なんだなと落ち込み、昨晩からの激しい己の感情の落差に付いていけない。
しかし、そんなフィオレオを見てガットがぷっと吹き出す。
「っふ、ははっ今日はやけに素直だな?寝不足みてぇだけど、いつもと違って魔力も体力も大丈夫だろ?シャワー浴びて飯食いにいこうぜ」
先程までの妖艶な雰囲気はどこへやら、パチンと小気味良い音を立ててフィオレオの肌を軽く叩くとガットはフィオレオからもベッドからも降りる。
「シャワー先にもらうぜ?」
「あ、…っ」
不意にフィオレオはガットの腕を掴んでしまった。
「ん?」
ガットが不思議そうに振り返る。フィオレオも掴むつもりはなかったので、視線を揺らしながら弱々しい声音で思い付いたままに言葉を重ねる。
「あ、あの…ガットこそ…体、大丈夫ですか?」
「ん?ああ…まぁ、喉とか尻がちょっとな?」
「う…っ」
「ま、すぐに治るだろ」
フィオレオの言葉が詰まるが、続くガットの明るげな声にほっとする。それでも腕を掴み続けるフィオレオにガットが不思議そうに見つめる。
「えっと…昨日は…ちゃんと眠れました、か?」
予想外の言葉だったのかガットは瞬きを繰り返す。
「なんでだ?」
問われてフィオレオはガットの腕を離した。思わず聞いてしまったが、ガットを心配する素振りで嫉妬心丸出しの己の行動に羞恥心からベッドの掛け布団を手繰り寄せ、頭からフードを被るようにかけて視界を遮る。
「……き、きき…昨日…、少しうなされていたので…っあ、あ、あの…っ」
「あー…なんか俺、寝言言ってたか?」
「……、……カッツェって…」
「……」
勢いのままフィオレオは気になることを口に出してしまった。ガットからの答えはなく、気になって掛け布団の隙間からチラリと見る。
いつの間にかガットは背をフィオレオに向けていて、ゆっくりと背伸びをしていた。
「…ガット…スミマセン、出過ぎた真…」
「誰だっけな、それ」
フィオレオが後悔で一杯になって言動を取り消そうと口にした瞬間、ガットの不思議そうな声音が遮った。
「え?」
ガットの表情は分からないが、首を傾げているのは後ろからも見てとれる。
「んーと…、カッツェカッツェ…カッ、あっ、あいつか」
ようやく思い付いたのか、手の平にポンッと拳を乗せてガットが告げる。
「え、あ、だ、誰ですかっっ?」
「そりゃ、わかんだろ?男だよ、男。昔馴染みだったやつ」
「ッッ!!?」
さらっと言われて、予想していたとはいえフィオレオが息を飲んで固まる。
「良い男だったぜ?筋肉質で、いろんなとこがでかくて」
「わーー、いいですいいです、すみませんっっ」
つらつらと昔の男の特徴を話し出されて、見たこともない男を具体的にイメージしそうになる。被った布団を更に深く被りながらこれ以上聞きたくないとフィオレオは丸まった。
「自分で聞いといてなんだよ。先にシャワーもらうからな」
くっとおかしそうに喉を鳴らして、ガットはフィオレオに振り向くことなく後ろ手で片手を振りながら浴室の方へ歩いていった。
(うぅ…やっぱり聞かなければ良かった…)
やはり寝不足は良くないなとフィオレオが思っていると外の通りから「ばっかだなぁ」とタイミング良く聞こえ、楽しそうな雑談の声も今のフィオレオにはグサッと刺さった。
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