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スカウトされてこの世界に入った。元々自分の容姿にはそれなりに自信があったし、女の人と話をして酒を飲んで給料がもらえるなら…くらいの気分だったのに、 「まっさかNo.1になっちゃうとはねぇ…」 「…俺が一番驚いてるよ」 出勤前。いつものようにヘアメイクをしてもらっている最中にリンさんがぽつりと呟く。 店に入ったばかりの時からお世話になっていて、あまりにも美人すぎるから女性だと疑わなかった。…つい最近まで。 「だってまだ3ヵ月とかでしょ?周りに何も言われないの?」 「あぁ…うん、ほどほどに…」 とは言ってもこのぼんやりした性格のお陰か、あまりそういった被害を受けた記憶がない。 「でもウチのキャストは潰し合いなんて時間の勿体ないことせずに、それなら少しでも頑張ろうって考える良い人たちばっかりだから」 個性豊かで、疲れないと言えば嘘になるけどみんな大事な仲間だ。 思い浮かべた顔を順に辿ると思わず笑みが零れる。 「はぁ…女の子たちはその顔にやられるのね、きっと」 小首を傾げるも、じっとしててと固定されてしまった。 「あ…そういえば、リンさん。一本向こうの路地にあるコンビニ、使ったことある?」 「んー、あの小さいけど品揃えの良い所?イケメンくんばっかりだから目の保養もかねてたまに行くわよ」 「最近は?」 「そうねえ…ここのところ忙しくて顔出してないから、上がった後にでも行こうかしら。どうかしたの?」 「ふうん…何でもない」 それきり黙り込んだ俺に相変わらず何考えてるか分かんないわね、と苦笑をひとつ。

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