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10.
家で乾かしているあの青いハンカチを思うと頬が緩む。
「にやにやしちゃってどうしたの?…ははーん、さてはAくんと何かあったんでしょう」
鏡越しの表情に気付いたのか、顔を覗き込んでくる彼に昨日の話をしてあげよう。
「…バレた?」
「アナタ、店ではミステリアスとか言われてるのよね?アタシからしたらこーんなに分かりやすいのに」
「それはリンさんの前だからだよ」
俺が心を許す数少ない人物のひとり。
目を細めて微笑むと、何故かため息を吐いて後ろに戻ってしまった。
「…ああダメだわ、直接見てられない。鏡越しくらいで丁度ね」
この天然たらし、と軽く髪を引っ張られる。
「………?えーと…それで、連絡先渡してきた」
髪を引かれた意味が分からない。
僅かな痛みに眉を寄せつつ、結果報告。
「あらほんと?やったじゃない!で、反応は?」
ぱっと離れた手に苦笑して、どこまで話すべきかと思案する。
「…可愛かった。あと、すごくいい子」
目を伏せて思い出すのは、あの笑顔。
当分…いや、きっと―――ずっと忘れられない。
「え、女の子なの?」
「―――に、見えるけど、たぶん違う」
「良かった、女の子にAくんなんて言ってたら申し訳ないし…。でも女の子にしか可愛いって言わないアナタが、ねぇ…」
ふうん、と意味ありげな視線を寄越す彼はさておき。
「可愛いって言われたくないタイプだと思う…俺の予想だと」
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