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「すいません、じゃあお先に失礼します!」
まだ店内に残る他のスタッフに声をかけて出た。
今日も今日とて朝まで勤務のはずだったが、母親が急に家を空けるとのことで妹たちの面倒を見るために俺が召喚された。
幸いまだ終電に間に合う時間だったので、許可してくれた店長に感謝しつつ駅へと急ぐ。
(ん…?あれ、もしかして…)
横断歩道が青になるのを待つ間、ぼんやりと前を眺めていると。
私服姿のルイさんと、隣には美人。
仕事の延長かな…毎日大変そうだ。と思ったのもつかの間、僅かな違和感を覚える。
コンビニに女性を連れてきた時とは違う、あれは営業の顔ではない。例えるならそう、気を許しきっているような。
「………っ、」
少し背伸びをする彼女が何事かを耳打ちして、頬に口付ける。たしなめる彼の頬は緩んだまま。
戯れにすぎないだろうそれを見てしまって、つきりと胸が痛んだ。
(…本命が居て当然だよな)
青に変わった横断歩道をゆっくりと歩き出す。気付かないフリをして、このまま通り過ぎてしまおう。
―――そう、思ったのに。
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