26 / 330
26.
「…ちょっとごめん、会いに来た人が居るんだ」
左右に分かれた女生徒の間を抜けてこちらへ向かってくるのは。
(ルイさん、)
気付かれる前に逃げてしまえば良かったのに、と思っても後の祭りだ。
「久しぶり、芹生くん」
目を細めて笑う彼は、相変わらずで。
俺は黙って頭を下げた。
ここでは目立つから、と実験棟の裏にある駐車場へ。昼間はほとんど誰も使わないため、今もひっそりしている。
「…良く、分かりましたね」
まず口をついて出たのは何とも可愛げのない言葉。
「ハルに頼み込んで調べてもらったんだ。君の友達…えーと、細田くん?と連絡先交換してたらしくて」
穏やかに告げる彼の顔を見られない。そよ、と吹いた風が女物の香水の匂いを運んでくる。
「何しに来たんです?」
「うん、誤解を解きたくてね。連絡も取れなかったし」
やけに甘ったるいその残り香が、癇に障った。
抑えなければ、と思うのに気が立って行く一方で。
「…誤解?別に俺とあなたの間には何も無いのに」
「芹生くん、」
隣でこちらを向く気配がする。
「だいたい、連絡しようがしまいが俺の勝手でしょう?」
ああ。これ以上は、本当に―――
「それをわざわざ学校まで来るなんて…」
匂いが、ふわりと一層強く香った。
「やめてくださいよ。ストーカーじゃあるまいし」
―――違う、こんなことを言いたかったんじゃない
そして訪れた静寂。
「………そう、分かった」
視界に影が落ちる。ぽん、と頭に手を置かれても、顔は上げられそうになくて。
砂利を踏む足音が遠ざかって行く。
ただ、じっと聞いていた。
ともだちにシェアしよう!