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29.
「ふうん…なるほど、な」
俺の膝に乗るミウを見ながら、ハルが呟いた。
「…なあ、芹生くんといつ知り合った?」
「2月中旬…ぐらいかな」
俺の答えを聞いた彼は無言で指を折る。言いたいことは痛いほど分かるから、そんな目で見ないでほしい。
「………お前ってそんな慎重派だっけ?」
静かに頭を抱える。自分でもどうして良いのか分からないのだ。
今までそれなりに女性と付き合って来たし、言ってしまえば夜の相手にも困らなかった。だが、それのどれも、相手から請われて共に過ごした時間で。
「多分、本気なんだと思う…」
だからこそ、選択を間違えたくない。
強く拳を握りしめる俺に気を遣ったのか、煙草を片手にベランダへと向かうハル。
しばらくその背を見つめてから、ふらりと後を追う。そのまま隣へ。
「…ん?」
柵にもたれ掛かって紫煙をくゆらす彼を見上げた。胡座をかいたまま、無言で手を差し出せば、煙草の箱とジッポが降ってくる。
「火、点けてくれないんだ」
「はは、キャバじゃねえんだから」
沈黙の中でひとしきり煙草を縮めて、灰皿代わりになるものを取りに部屋へ戻った。
「あー……も…し?俺…けど、……えて……か?」
ベランダの彼はどうやら電話中のようだ。断片的に聞こえる声からは何も読み取れない。
そろそろ吸い終わる頃だし、携帯灰皿なんてものは持っていないだろう。だから置くだけ。うん、別に話が聞きたいとかじゃない。
そっと近づいた、瞬間―――
「……ん、芹生くんに言っておいて」
カラン、とアルミ製の皿が転がった。
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