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30.
あの日から、あまり眠れないでいた。
眠ろうと目を閉じればいつもそこは駐車場で、その度に自分がどれだけ非情なことをしたか思い知らされる。
邪険にして良い立場でもない、そんな権利もない。それなのに。
(ほんと、最低だ…)
浮かない顔で箸を握る俺を見かねた細田が声をかけてくれた。
「食欲ねえの?」
「ん…まあ、ちょっと色々あって」
ことりと箸を置く音に、顔を上げれば。
あまり見たことのない真剣な顔つきの細田がいた。
何度か口を開いては閉じ、逡巡した末に出てきた言葉は。
「……ルイさん、覚えてるよな?」
騒がしい食堂から、音が消えたような錯覚。
忘れるわけがない。美しくて、繊細なひと。
「店…休んでるんだって」
それきり二の句の継げない俺の耳に、いとも容易く落ちた衝撃の事実。
細田は関係のないことをわざわざ言いふらすような性格ではない。ということは。
―――俺の、せい…?
「これ、ハルさんの連絡先。お前のこと心配してたから」
落ち着いたら、連絡してあげて。
彼が講義へと去った後も、目の前に置かれた紙を見たまま、俺はしばらく動くことができなかった。
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