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「すみません、突然…」 「気にすんなって、俺がお節介してるだけだから」 隣を歩くハルさんを見ながら謝る。 あれから、結局彼に電話をして。約束を取り付けてもらい、俺達はルイさんのマンションへと向かっていた。 「…ちゃんと仲直りできるといいな」 くしゃりと頭を撫でられ、緊張が少し解れる気がした。 「アイツが腑抜けだと張り合いねーんだよなぁ」 おどけた調子のその言葉は、俺を気遣ってくれたのだろうか。 どういう結果になったとしても、胸を張ってこの人と細田に報告できるように、精一杯頑張ろう。 後ろで待ってて、と言われて大人しく下がる。 チャイムの音が聞こえて、足が竦む。 ああ、今すぐにでも逃げ出したい… 「はよ、約束通り来てやったぜ!」 「約束通りっていうかだいぶ早いんだけど…まあいいや、上がって」 ふわ、と欠伸混じりの声が聞こえて、思わず身体が強ばる。 (や、やっぱり…無理、かも………) 姿を見る前からこんな風に固まっていては、きっとまともに話なんて出来ない。そろりとハルさんの背中に手を伸ばす。 「……て、事だからさ。俺忙しいし、あとはお2人さんでよろしく~」 「は…?」 「ちょ、ハルさん!?」 くるりと振り向いた彼に手首を掴まれ。気付けば前に押し出されていた。 「っ、え…な、なんで…君、が…ここに?」 ……………おい待て。 錆びたロボットのように後ろへ首を回せば、彼は飄々とした顔でこう宣った。 「あっれー?言ってなかったっけか?今日お邪魔するのは俺じゃなくて芹生くんな、どうぞごゆっくり~」 唖然とする俺達は完全に置いてきぼりだ。 それじゃあ予定があるから、なんて。 そんな、話と違う…! 立ち去る背中をぽかんと見つめることしかできない。

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