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「なんて言ったら良いのかな…あの見た目で信じられないだろうけど、戸籍上は男性だよ」
驚きすぎて涙も止まってしまった。あんな美人が男性なんて、世の中何があるか分からない………
「友達として大事に思ってるし、俺が心を許せる数少ない人。でも、それ以上にはならないから」
涙の乾いた跡を撫でられ、思わず瞬く。そうとは知らずに本命だなんて決めつけて、ますます申し訳ないことをしてしまった。
「…次は、俺の話。」
大丈夫?と覗き込まれて、なんとか整理できた。女性と間違えてしまったことはまた後できちんと謝ろう。
「ハルが細田くんに電話したのも、それで芹生くんに話が行ったのも知ってる。ただ、まさか君が今日来るとは思ってなかったよ…」
頭をかきながら接ぎ穂を探しているような様子で。しばらくすると上がった顔。強い視線に、ひたりと見据えられる。
「前、メールで聞いたよね。何で自分に連絡先渡してくれたのかって」
気になる、けど、聞きたくないような…
ごくりと唾を飲み込んだ。
「…それは、君が。芹生くんが、1人の人間として、魅力的だと思ったから」
恐ろしいほど真剣な瞳。澄んだガラスに煌めきを閉じ込めたような、それに。今は俺だけしか写っていなくて。
吸い込まれる―――
反射的に、小さく息を詰めた。
「見た目の通り…いや、もしかしたらそれ以上に、きっと…心も綺麗なんだろうなって。ありきたりな言葉だけど、仲良くなりたかったんだ」
不意にぽろりと零れ落ちたのは、止まったはずの涙。
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