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「でも、あの…俺、ほんと何もできなくて……何か、して欲しいことってありますか…?」
自分で言っておきながら何も考えていなかった。どうしたものかと目を伏せた瞬間。
………ぐうううぅ
何とも小気味よく鳴った音は。
「あ、朝から何も食べてなくて…」
わたわたと腹部を押さえても後の祭りだ。壁の時計に視線をやると、そろそろお昼時で。
「…今日じゃなくて良いから、手料理作ってほしいな」
「えっ…手料理、ですか…!」
「うん。……ダメ?」
「そんな、料理が特別上手ってわけでもないですし……無理です…」
手をばたつかせて焦る姿は、見ていて飽きないけれど。ぽん、と頭に手を置く。
「芹生くんが作ってくれた料理なら、どれだけ焦げてても食べられるよ」
なおも見つめると、折れたのか。やがてため息をひとつ吐いた。
「…うぅ……分かりました」
家に戻って昼食を摂るという彼を笑顔で見送ってから、気付く。
店を休んでいる間、あれだけ吸っていた煙草に、今日はまだ手を伸ばしていない。
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