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55.
「あの…そういえば、さっきの嘘って何ですか…?」
恐る恐ると言った体 で聞いてくる姿に、さっきまでの気持ちを思い出して少し拗ねてみせる。
「……料理はそれほど得意でもない、って」
そう、確かに彼は言っていた。なのに。
「家でもよく料理するんだ?」
「うっ…」
あれはその場しのぎの付け焼刃じゃない。エプロンといい、普段からキッチンに立ち慣れている人の動きだろう。
じとりと視線を送れば、垂れた尻尾が見えるような気がしてくるから不思議だ。
「別に責めてないよ」
ぽん、と頭に手を置いて撫でる。
「す、すみません…自信あるって、言うのも…どうかと思って」
あの日、コンビニで触れてからお気に入りになった猫っ毛の感触を楽しんでから手を離した。
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