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「―――で、それから恒例になった…と」 あれからしばらく経った。目の前で頬杖をつきながら肉を炙る彼に会うのも久しぶりだ。 「良いなぁ、俺も芹生くんの手料理食いてー!」 じたばたしながら喚く目の前のハルにため息をついて、取り皿に肉を入れてやる。分かりやすいほど急に大人しくなった姿がなんとも微笑ましい。 「そんで?店の方は?」 「しばらく内勤がメイン。事務業務と、あとはヘルプに徹しろって」 あれだけ身勝手な理由で休んでいたのだから、厳罰だろうと覚悟していた。オーナーの直人さんは言わなかったけれど、きっとこれは、特別な救済措置。 『復帰したら今までの倍は稼いでもらうからな、頑張れよ』 戸惑う俺に掛けられた言葉で、それを悟った。 「ふうん…お前の客が全部ウチに流れて来れば良いのに」 冗談半分、本気半分といったところだろう。肉をつつきながらぼやく様子が何だか可愛らしく見えて、思わず笑ってしまった。 「大丈夫。Ashには行くなって言ってあるから」 「はぁ!?そりゃねえだろお前…」 「嘘だよ。そもそも流れなくたって平気なくせに…No.1のハルさん?」

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