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「ルイが嫌味言うなんて…人間らしくなったな………」
俺は嬉しいよ、と顔を覆う彼もまた、名の知れたホストクラブ『Ashx 』で不動のトップを守り続ける男だ。
「…まあ冗談はさておき。お前、ちゃんと休んでんの?」
痛い所を突かれて、自分でも顔が強ばるのを感じた。
ヘルプに入るようになってから主役を潰さないように、と明らかに酒の量が増えている。
また、オーナーも、流石に同伴や店外でのアフターまでは制限する気がないらしく。
店内で一時的に俺を指名出来なくなったお姉様方からのお誘いが前よりも格段に多くなった。
時間外だから、と今までは断りがちだったそれも、今回は客を繋ぎとめておくためになるべく有効活用するしかない。
枕営業は最終手段だし、切り札として取っておきたいというのを別にしても、あまり進んでしたくはないタイプで。
幸い、そんな俺の淡泊な性格も『ルイ』を構築する一部として受け入れてくれるお客さんが多いから、そっち方面で疲れることはないけれど。
まあ、ともかく。週に1日だけは同伴もアフターも全て断って、芹生くんに料理を作ってもらっている。大学に迎えに行って、買い出しに付き合うのも楽しみのひとつだ。
―――と、いうことは。
「………寝る時間が、ほとんどない」
「だろうなあ…」
多分、この期間が終わって指名解禁になったとしても、今より忙しくなるのは目に見えていて。本当はのらりくらりと接客したいが、温情をかけてくれたオーナーに売り上げで恩返ししたいと思う。
「倒れるんなら芹生くんか俺の前にしとけよ~?」
そんな軽口に生返事で応えて、すっかり冷えてしまった肉に箸を伸ばした。
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