60 / 330
60.
―――最悪の気分だ。
朝、目を覚ますとそこは床で。
のそりと体を起こす。
関節という関節が全て悲鳴をあげている感覚。俺の家に、毛布を掛けてくれる同居人がいるはずもなく。
顔を舐めて起こしてくれたミウを撫でて抱き上げようと体を倒した瞬間。
「………っ!」
猛烈な吐き気に襲われ、慌ててトイレへ向かった。
先週、芹生くんが料理を作りに来てくれてからほとんど何も食べていない。逆流する酒が食道を焼き、強い胃酸を感じて断続的に痙攣の波が襲ってくる。
昨日はしこたま飲まされ、そのままアフターへ。相手は俺の苦手な彼女だったが、客の中でもエースと呼ばれる存在で。
口をゆすいでからソファーに横たわる。
彼女―――ミカちゃんは、あのコンビニでの会計以来、客の中で自分だけが特別な存在だと思い込んでいるらしく。客の管理もホストの仕事だが、あいにく今はそんな余裕がなかった。
困ったことに、彼女とのアフターは9割が枕営業。こちらがいくらたしなめても、聞く耳を持たない。
ベッドまで辿り着けなかったのか、それともその感触で昨夜を思い出してしまうからか。水も飲まずに床で寝落ちたのは初めてだ。
酷く寒気がする。額に手を当てて体温を確かめたいが、腕すら上がらない。重力に抗うのも辛くて、そっと瞼を落とした。
ともだちにシェアしよう!