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「……あ、れ」 いつもの駐車場に着くと、そこは無人で。 スマホを取り出して日付を確認する。メールを打とうとして、ふと手を止めた。 (…料理は作るって約束だけど、買い出しは毎回付き合ってくれるわけじゃないのかな) もし、今までが彼の気まぐれだとしたら。今日はたまたま忙しいのかもしれない。 確かめるのが怖くて、結局メールは送らずに削除。 (マンションまで行って、留守なら帰ろう…) いつものスーパーへ足を向けた。 買い物を終えて見慣れた扉の前に立つ。呼び鈴を鳴らすが応答なし。 明らかに落胆している自分に苦笑を向けて、スマホを取り出した。帰る旨を伝えようと画面をタップしたところで、微かに聞こえる音。 (部屋には居る、のか…?) 思わず興味を惹かれてドアに耳をつけると。 (……ああ、猫の声だ) 何度か訪れるようになってから、ようやく懐いてくれたアメリカンショートヘアのミウちゃんを思い出して頬を緩めた。 しかし、何か引っかかる。 普段はたまにしか鳴かない、いわゆる大人しい部類に入るはずなのに。今日は何故かひっきりなしに鳴いていて。 そう―――人間で言うと、切羽詰まったような声。 訳のわからない焦燥感に襲われて、それでも一応遠慮がちにドアノブを回す。 (え……開い、てる…!?) あたりを見回してから、そっと体を滑り込ませた。

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