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63.
多分、人生で一番早い買い物だった。
頭に浮かぶままカゴに放り込み、お釣りを受け取り忘れるぐらいに。
慌てすぎて、家を出る時に何も言わなかった気もするが、その辺りの記憶が曖昧で。
(………て、いうか)
あれは反則だと、思う。
エレベーターの静かな作動音を聞きながら、右手に視線を落とす。
いつも体温の低い彼の頬があれだけ熱いということは、きっと意識も朦朧としているだろう。無自覚での行動だったのかもしれない。
一瞬のそれを、酷く愛らしいと思ってしまった自分に驚く。
エレベーターから降りて、部屋へと急いだ。
やむなく鍵を開けたまま出てしまったが、室内に変わった様子はなくてほっとする。
「ルイさん、ここじゃ体が痛くなりますから…ベッドに行きましょう。立てますか?」
ふらりと立ち上がった長身の体躯を支えながら、寝室へ。場所は知っていたものの、初めて入るそこに僅かばかりの緊張。
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