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64.
上体を起こして座る彼に、解熱作用のある風邪薬と、水が入ったペットボトルを渡す。
余程辛いのか、飲み終えてそのままずるずると横になる様子に胸が痛んだ。
慌てて氷枕を差し入れ、続いて薄手のタオルでくるんだ保冷剤を渡すと、どうすれば良いのか分かっているようで。もぞもぞと動いて何箇所かに挟み、息を吐いた。
「………ごめん」
水を飲んだお陰で声が出しやすくなったのだろう、少し掠れたそれに首を振る。
「大丈夫ですよ。気にせずゆっくり休んでください」
額に冷却シートを貼って、念のために桶を枕元に置いた。
「……しばらくここに居ますから」
無言でじっと見つめられて、横に座り込む。言葉よりも雄弁に語る瞳は慣れ親しんだもの。
(風邪の時って、誰かに傍に居てほしいんだよな…)
体調を崩しがちな一番下の妹を思い出す。彼女にいつもしてやるようにそっと手を握ると、一瞬強ばったものの、緩く握り返されて。
規則的な寝息が聞こえるまで、そのまま見守った。
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