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ふっと引き上がった意識を感じて、目を開ける。ぼんやり手繰った記憶が正しいのか迷っている中、届いた香りに自然と緩む頬。 足りなかった分もたっぷり睡眠を取って、薬を飲んだお陰だろうか。少し動くのもあれだけ億劫だったことが嘘のようだ。 ゆっくり体を起こして、動けそうだと確認する。温くなった水を口に含んで、部屋を出た。 「―――あ、おはようございます」 匂いにつられるように歩いた先には、やっぱり芹生くんが居て。少し恥ずかしそうにはにかんで、手元の鍋に視線を落とした。 「お粥…?」 「はい、少しでも食べられそうならと思って。勝手に上がり込んじゃってすみません…これ作ったら帰るので、一応熱は計ってくださいね」 帰る、という単語がどうしようもなく寂しい。 普段なら気にならないそれも、今はつきりと胸に刺さった。 「体温計の場所、分からなくて…もしかして家になかったり―――」 振り返ろうとした彼の腰に手を回し、そのまま抱きすくめる。首筋に顔を埋めると、細い髪が頬をくすぐった。 「えっ、あの……!!」 彼は、俺のことを全く恋愛対象として見ていない。友達としては嫌われていないだろうけれど、恋人を望めば断られるのが容易に想像できる。 分かりきっていたはずのそれが、何故か酷く苦しい。

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