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帰る、イコール拒絶という訳ではないし、彼もそういうつもりで言ってはいないだろう。 ただ、思い出してしまった。リンさんを連れて、交差点ですれ違ったあの時を。 何に対してかは分からないが、終わってしまったと感じた。 俺の全てを拒絶するような、冷たい瞳。 「―――頼むから、拒まないで」 ぽろりと落ちた言葉に、驚いているのは自分自身。『芹生』という人間がそれだけ心を占めている事実を、まざまざと突きつけられた気がした。 彼は優しいから。 弱さを理由に、今日だけは許して貰えるだろうか。 「…じゃあ、一緒に食べましょう?」 顔を伏せたままの俺に、何を問うでもなく。 決して押し付けがましくない、穏やかな声音でそう告げられ、頭に手のひらが乗る。 多めに作っておいて良かったと笑うこの子は、とても聡い。

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