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「だって、聞いて良いのか分からなかったんですよー…」 笑われて恥ずかしかったのか、口を尖らせる彼を宥めながら手を取った。 「ごめんごめん、えーと…日の光って書いて、(ひかる)。三井晄です」 手のひらを人差し指でなぞってやると、たちまち明るい表情に一変する。 「あ…俺、は…木へんに風の(かえで)、です。女の子みたいでちょっと複雑なんですけどね…」 ―――せりょう、かえで 確かめるように呟くと、驚くほどすんなりと馴染んだ。 「…よし、じゃあ楓くんって呼ぼうかな」 『ちゃん』付けよりは『くん』の方が良いよね?と問いかけ、頷く姿を確認してから体を倒す。 当然のようにするりと絡められた華奢な手。勘違いしないように言い聞かせ、眠りに落ちるまでは甘えようと決めて目を閉じた。

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