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あれからしばらく経って、体調が戻ったところで楓くんにメールした。この前のお詫びと、次の誘いを。
すごく賢い猫ちゃんですね、と彼に褒められたミウを抱き上げて頬ずりをする。受信音が鳴って画面を見ると。
(ああ、もうそんな時期か…)
聞けばもうすぐ試験期間らしい。大学によって差はあるが、少し暑くなるこの季節は俺も勉強漬けだった記憶がある。
『レポートが上手く進まなくて…行き詰まってます』
ため息を漏らしていそうな彼に、何かしてあげられることはあるだろうか。
『そうなんだ…課題のテーマは?』
『資金家とベンチャー企業を繋ぐための、証券市場を通じた仕組みがうんぬんとか…そんなの知るかよって言いたいレベルで』
聞き覚えのありすぎる単語に驚いて、危うくミウを落としてしまうところだった。すっかり鈍ってしまった脳をフル回転させる。
『それだと、必然的にレモン市場の情報が非対称だってことも出てくるかな。そもそもの論点は整理できてる?』
『えっ…と、正直ゴチャゴチャで…っていうかあの、この分野に詳しいんですね…』
少し迷って、あまり深くは言わないことにした。
『俺も昔ちょっとかじってたから。教授ウケの良い書き方とか、教えようか?』
ただ純粋に力になれれば。先入観なしで、やり取りをしたいと思った。
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