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「お邪魔します…」 「はい、どうぞ」 何度来ても慣れない俺を面白く思ったのか、楽しそうに細められた双眸。 前回が目まぐるしい滞在だったこともあり、妙にそわそわしてしまう。キッチンが視界に入ると余計落ち着かない気分になった。 見た目はすごく細いのに、実はしっかり鍛えられている二の腕に、厚い胸板だとか。香水よりもずっと優しくて自然な―――恐らくは彼自身の匂い、を思い出してしまって。 「……楓くん?」 ぐしゃぐしゃと頭をかき回していると、両手にマグカップを持ったルイさんが戻ってきた。 「な、なんでもない…です……」 あの時は流れで頷いてしまったけれど、やっぱりその呼び方は恥ずかしい…なんて言えるわけもなく。 「そう…?じゃあ、早速だけど始めようか」 よろしくお願いします、と横を向いて後悔した。 深い瞳を縁取るのは、銀色で細身の…眼鏡。 レンズに付きそうなほど長い睫毛は真横から見ると圧巻で。端正な顔立ちも相まって絶大な破壊力だ。 教えてもらう内容が無事に修得出来るか不安になってきた俺をよそに、真剣な表情のルイさん。

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