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あれから、不審に思ったオーナーが様子を見に来て、黙って鏡を差し出すのをぼんやり眺めた。 そりゃあもう、酷い顔に決まってる。 再び1人になってすぐ。裏口の扉が開いた。 俺を見て少し驚いたような顔をする、翔。 「店、戻らないんですか?」 「………随分遅かったね」 質問には答えず、静かに立ち上がった。スッと目を細めたこの男が、何を考えているのか分からない。 「…泣いてましたよ」 誰が、なんて言われなくても分かる。 傷付けたのは俺だから。 目の前にかざされたスマホ。画面を見なければ良かったと、後悔しても遅い。 『服、汚してすみませんでした…。今度何かの形でお詫びさせてください。それと…俺で良ければ、よろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました。』 事情があるとはいえ、知り合ったその日に送られてきたメール。 ……俺の時とは、違う。 気になる部分はたくさんあるのに、何も聞く気になれなくて。 翔の横をすり抜け、そのまま外へ出た。

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