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89.
この短期間で、何だか懐かしく感じるようになってしまった後ろ姿を見つけて、恐る恐る声をかける。
「……ハル、さん」
俺を振り返って苦笑を浮かべた彼に、手招きされて。
「取りあえず、おいで」
注文してくれたハーブティーから香る匂いは、確か心を落ち着かせる作用のあるレモンバームだった気が…。さりげない心遣いに感謝して、ほっと息をつく。
「…いつもすいません」
本当に、色々と。短い言葉にたくさんの気持ちを込めて軽く頭を下げる俺に、彼は。
「甘い物は心を穏やかにしてくれるから」
どこまでも優しくて、大人だ。
勧められたチョコレートを手に取ったところで、頬杖をつくハルさんと目が合う。
「それで、俺に聞いて欲しい事って?」
どこから話そうか、と。考えあぐねて、持ったままのチョコレートを眺めた。
意を決して、見たまま聞いたままを伝える。文章も順序もきちんとしていない、子供のような話に辛抱強く付き合ってくれた彼へ、果たして伝わっただろうか、と少し不安になる。
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