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「その、『女の客に文句を言われないために男を選んだ』って…ルイからも聞いた?」
「いえ、直接は…ただ、きっとそうなんじゃないかって思います。あの女の人も言ってたし」
それを受けて、少し考え込む素振りを見せるハルさん。やがてゆっくりと口を開いた。
「今までのルイを思い出して。あいつが、自分の営業のために君を利用すると思う?そんなに酷い奴だったかな」
そんなわけない、と思っていた。だからこそ、ショックで。信じたくなくて。でも、どこか嘘であって欲しいと願っている自分がいる。
「絶対に、芹生くんを傷つけるはずがない。」
温かい響きの、その言葉に。
頷いて、不意に泣きたくなった。
見透かされたような絶妙のタイミングで頭を撫でられて、余計に目頭が熱くなる。
せっかく友達になってくれたのに、俺はルイさんのことを、全然分かっていない。
純粋に―――知りたいと、思った。
何を考え、何を感じているのか。
「同じ性別の相手を想う気持ちが、どういうものか…教えてやろうか」
噛みしめるように呟いたハルさんに、息を呑む。他人事であるはずなのに、これじゃあまるで―――…
見たことのない表情を目の前にして、何度か瞬いた。
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