90 / 330

90.

「その、『女の客に文句を言われないために男を選んだ』って…ルイからも聞いた?」 「いえ、直接は…ただ、きっとそうなんじゃないかって思います。あの女の人も言ってたし」 それを受けて、少し考え込む素振りを見せるハルさん。やがてゆっくりと口を開いた。 「今までのルイを思い出して。あいつが、自分の営業のために君を利用すると思う?そんなに酷い奴だったかな」 そんなわけない、と思っていた。だからこそ、ショックで。信じたくなくて。でも、どこか嘘であって欲しいと願っている自分がいる。 「絶対に、芹生くんを傷つけるはずがない。」 温かい響きの、その言葉に。 頷いて、不意に泣きたくなった。 見透かされたような絶妙のタイミングで頭を撫でられて、余計に目頭が熱くなる。 せっかく友達になってくれたのに、俺はルイさんのことを、全然分かっていない。 純粋に―――知りたいと、思った。 何を考え、何を感じているのか。 「同じ性別の相手を想う気持ちが、どういうものか…教えてやろうか」 噛みしめるように呟いたハルさんに、息を呑む。他人事であるはずなのに、これじゃあまるで―――… 見たことのない表情を目の前にして、何度か瞬いた。

ともだちにシェアしよう!