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92.
喉の奥が痛いのは、きっと走ったせいだけじゃない。赤信号を待ちながら、膝に手をついて呼吸を整える間に。
ふと、考えてしまった。
ハルさんは、そんなことないと言ってくれたけれど。もし本当に利用されていただけだとしたら―――…
頷く姿を想像しただけで、足が重くなる。
答えを聞くのが…怖い。
だけど。後悔はしたくないから。
逃げてしまえと囁く声を振り払って、足を進めた。
店の前で呼び込みをする声は知っているそれで。思わず歩みを止める。
「あれ…?芹生くん、どした?」
翔さん。まさか会うとは思っていなかったから、慌てて頭を下げた。
「あの、ちょっと…話があって。……ルイさん、に…」
何かを察してくれたのか、ぽんと肩に手を置かれて。
「…そっか、じゃあお兄さんが呼んであげよう」
あの、柔らかい笑顔。
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