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94.
寄せられた眉と、吐かれたため息。
去っていく背中が頭から離れない。目を閉じれば簡単にあの日の光景を思い出せてしまう自分が嫌で、あまり眠らなくなった。とっくに感じなくなった食欲。夏バテ気味だから、と家族に笑いかける毎日。
掛け持ちしている両方のサークルにほとんど顔を出すようになったし、バイトも増やした。好きな本と、綺麗な花の香りに囲まれている時は気持ちが穏やかになって。
結局それも、一時的なものにすぎないけれど。
あれから。申し訳なくてハルさんには連絡できていない。きっと最初から、こうなるべくして落ち着いた結末だと思う。
事務所の天井を見ながら、唇を噛んだ。今日だって店長に迷惑を掛けてしまっている。
ボーッとしていたら薔薇の棘で指をざっくり。漫画かよ、なんて冷静な俺を他所に周りが慌ててしまって。血の滲む絆創膏を何度も変えたのが昨日。
高い棚に本を並べようとして、ちょうど絆創膏の位置に表紙の端が擦れた。予想以上の痛みに思わず顔をしかめた途端、手から離れる本。慌てて拾おうとして、脚立から落下。
…で、今に至る。
ため息なら何度もついた。涙も涸れた。連絡先だって削除した。
どうすれば良い?
どうすれば、忘れられる?
知らないうちに、こんなにも心を占拠されていた。俺ばかりが友達だと思い込んで。
(……悔しい、なあ)
それ以上に、悲しい。
炎天下の草むしり。正直断りたかったが、お世話になった高校からの頼みとあってはそうもいかず。
「いやぁ悪いね芹生くん、それとサークルの皆さん」
付属校ということもあってか、ウチのサークルはこの高校出身者が多い。みんな疲労を見せつつも笑顔を返す。
昨日はほとんど眠れなくて、当然朝食も手をつけていない。心配した母親に弁当を持たされたが、カバンに入れたままだ。
座り込んで、ひたすら雑草を抜く。肉が蒸発して、骨だけで動いているような。ふわふわした感覚。
滴る汗が何故か冷たく感じて。
目の前が紫色で覆われた時、直感的に限界を感じた。
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