95 / 330
95.
目の前の彼は…そう、細田くん。落ち着いて見えるものの、瞳を見れば紛れもない憤りが窺える。
何を怒りにわざわざ店まで来たのか。全く見当もつかない。
「…電話もメールも、無視ですか」
申し訳ないけれど、細田くんの連絡先も削除させてもらった。いつどこで、仲良しの彼と繋がってしまうか分からないから。登録していない番号からの電話は出ないし、メールも拒否リストに回すよう設定してある。
「もう、俺には関わる理由がない」
友達では居られるだろう、と弱い俺が囁くのをどうにか振り切って決断した。彼の幸せそうな顔を近くで見ていられる自信なんて、ない。
「はは…そんなに勝手な人だとは思いませんでした。お役御免って訳かよ」
お役御免は俺の方だ。翔のことはまだ良く分からないが、きっと大事にしてもらえる。彼はあんなに素敵な人なんだから。
「…取りあえず、これ」
乱暴に突き出された紙には、見慣れた病院名と号室。理由も分からないまま、勢いに押されて受け取る形になってしまう。
「あいつ…そこに居ますから」
―――誰が?まさか、
「入院………?」
「倒れたらしいですよ。詳しくは直接聞いてください」
俺を睨む双眸が、ふっと翳る。一度瞬きをした彼は小さな声で付け足した。
「それと、あの日。ハルさんとは何もなかったみたいですから」
ともだちにシェアしよう!