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「ハル、と…?」 全く意味が分からない。何故そこであいつの名前が出てくるのか。 俺のぽかんとした表情を見て細田くんが首を傾げる。 「…え?芹生、店に来ましたよね?話がしたいって」 それは覚えている。後ろに翔を引き連れて、まるで仲の良さを見せつけるかのように。 思い出して、ぎゅっと拳を握った。 「どうせ付き合う報告でもしに来たんだよ」 「あの…ちょっと何言ってるか分からないんですけど」 ぽりぽりと頭を掻いた細田くんから、事の顛末を聞かされて。俺は過去の自分を呪いたくなった。 俺に利用されていると思い悩んで、ハルに相談したこと。結局冷たく追い返されて、体調を崩したこと。 なぜ利用されていると考えたのかは謎のまま。だけど、それ以上に気にかけるべき部分は。 『あー…なんか痕は付けたらしいですよ。でも芹生が泣いたからそれ以上はしなかったって』 ただただ動転して、なぜ細田くんがそこまでハルの動きに詳しいか考える余裕もなかった。

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