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99.
栄養失調と貧血、睡眠不足が引き起こした熱中症による軽度の自律神経失調症。
これが俺の現状だそうで。
"ひとつひとつは大したことがなくても、積み重なるとこうやって入院沙汰になるからね?"と。お医者さんに諭されて頭を下げた。
あとは家族と、迷惑を掛けたサークルの仲間にも謝って。みんな大げさな程に心配してくれたから、却って申し訳ない。
着替えを置いた母親が帰って、一人になる。この病室は3人部屋で、1人は昨日退院したとのこと。もう1人の入院は明後日になるらしい。
というわけで、臨時の個人病室のような扱いになっている。静かな場所でゆっくりできてほっとする反面、話し相手が居なくて少し寂しくも思う。
読みかけの小説を開いた時、ノックが聞こえて。母さん、忘れ物かな?なんて呑気に返事をした。
「…こんにちは」
驚きすぎると、人は声も出なくなるのだろうか。
ただ口を開閉させるだけの俺に苦笑して、ゆっくり近寄ってくる―――ルイ、さん。
お見舞い、と。サイドテーブルに置かれた紙袋を眺めて、逃げ場のない状況に頭を抱えたくなった。
所在無さげに佇む彼に、取りあえず椅子を勧めて。布団の上で握った手に視線を落とす。
「……体調、どう?」
「だいぶ落ち着きました。ありがとうございます」
顔を上げられない。わざわざこんな所まで何をしに来たのか、いくら考えても答えが出ることはなかった。
「細田くんから、君が倒れたって聞いて………本当に、申し訳ない…」
用済みになった相手にもこうして毎回謝っているのだろうか、この人は。律儀にもほどがある。
「…もう良いですよ、俺がバカでした」
「そっか…普通、そう思うよね」
ふっと自嘲の笑みを漏らすと、応える声は酷く落胆したもので。思わずそちらを見やって、後悔した。
(――何で、貴方が傷ついた顔してるんですか)
「……今から全部、俺の独り言だから」
見つめた視線を逸らして、ぽつりと呟く彼の真意が読めない。
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