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「…まず、利用しようなんて考えはさらさらなかった。それなのにあの子…ミカが勘違いして、っていうより君を落ち込ませたくて言ったんだろうなあ…とは思う。俺がもっと注意を向けるべきだった。傷つけて、ごめん。信じてもらえないかもしれないけど、本当に…ただ、仲良くなって、近くに居たかっただけで――…」 そこまで言って、押し黙った。今の状況だと何を伝えても嘘にしか聞こえないだろうから。 「………信じるって、すごく勇気がいることですよね」 どうしようか考えあぐねていた俺に、かけられた言葉。予想よりも柔らかいそれを不思議に思う。 「元はと言えば、店の見学を頼んだのは俺だし。だから、ルイさんのこと…信じて、みます。ただ、分からないことがあって」 深く息を吸ってこちらを見つめる、透明な瞳が揺れていた。 「あの日…何で、追い返したんですか?」 きっとこの問題の方が彼にとっては重要で。答えが気になる様子も伝わってくる。 ただ、それを話すということは。俺の情けない嫉妬と勘違いを明らかにするのと同じ。 「………痕、付けた相手が…翔だと、思ったから」 どうしても小さな声になってしまうのは許してほしい。分かりやすいように自分の首筋を指先で叩いてやると、目を見張った。 「あっ、あれは!その、ハルさん…なんですけど、でも特に意味があったわけじゃなくて…!」 「うん、知ってるよ。大体の事は細田くんに聞いた」 「……じゃあ、まだ、友達で居られますか…?」 「むしろお願いします。仲良くしてほしいな」 俺の返事を聞きながら。立てた膝を布団の上から抱えて、ほっとしたように笑う彼を見ていると。 言ってしまいたい、と思う。場所も、タイミングも、もしかしたらベストとは程遠いかもしれない。 それでも――… 「…楓くん。俺は………君のことが、好きです」 どれだけ考えたって、結局この二文字に行き着く。僅かに震えてしまった声に苦笑して、彼の手を取った。

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