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104.
退院してから2週間。残暑と言っても朝晩は少し冷えるようになってきた。
薄手の毛布を引っ張り出した時、スマホが震える。表示された名前を確認してからすぐに出た。
「もしもし、」
『あれ、今日は早かったね』
笑みを含んだ声に怒ろうとして、結局苦笑に変わった。
ルイさんはあの日から毎日、こうして電話を掛けてくれる。忙しいだろうと遠慮したのに、
『楓くんの声が聞きたいから』
なんて言われてしまえば黙るしかない。
「俺だって毎回毎回、風呂に入ってるわけじゃないんですよ?」
最初は何故かほとんど入浴中で、タイミングが悪いと頭を抱えていたものの。
俺が女性並に入浴の時間が長いと思い込んだルイさんにからかわれるようになって、釈然としないまま時間帯を変えた。
してやったり、とガッツポーズをする俺の姿を想像したのか、向こうの彼も笑ったようで。
『…ああ、そうだ。今週末って空いてる?』
「えーと……土曜日なら大丈夫です」
『良かった。前に話した海、行こうか』
東京生まれ東京育ちの俺は、あまり海を見たことがない。だから密かに楽しみにしていた約束。
『楓くんの最寄り駅まで車出すよ』
「え!?そ、それは申し訳ないですって…!」
『気にしないで。その代わり、お弁当…作ってほしいな』
甘えるような声音に、ぐっと喉の奥が詰まる。
本当に、このひとは………ずるい。
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