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108.
打ち付ける波音、海面で踊る陽の光。少し塩辛く感じる風を吸い込んで、呟かずにはいられなかった。
「海、だ……」
浜辺には人がほとんどいない。時期はずれにしても、まだ暑い今日はもう少し多いかと思っていたのに。
「みんな反対側の広い海岸に行くんだ。向こうに比べてこっちの方は波が落ち着いてるから」
隣に立つルイさんと海を見比べて納得する。
「子供はその方が喜びそうですね」
「ふふ、楓くんもあっちが良かった?」
からかうように顔を覗き込まれて、思わずムッとする。泳ぐならまだしも、見ている分には目の前の海で充分だ。
黙って歩き出すと後ろをついてくるルイさんはまだ笑っている様子で。それが何だか悔しい。少し屈んで、両手に掬った水を振り向きざまに掛けた。
「……やっぱり子供だ」
驚いたように目を丸めた彼は、ふっと柔らかい笑みを浮かべて。俺がしたように水を掬う。何をされるか察知して距離を取ろうとするが、それよりも早く水を浴びてしまった。
「ちょ、ルイさんだって子供じゃないですか…!」
「えー?楓くんからしたら俺はもうおじさんだよ」
飄々とうそぶく彼に一泡吹かせてやりたくて、掬っては掛け、を繰り返す。水掛けの応酬になって、お互いもうびしょびしょだ。
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