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車に戻り、思いを馳せるのはついさっき起きた出来事。 俺を片腕で支えられる力と、逞しい胸板。シャツに貼り付いて浮き出た腹筋は綺麗に割れていて、同じ男なのにこうも違うのかと苦笑する。髪から滴る雫の一滴さえもきらきらと光っていた。 そして何より、 (……キス、されるかと、思った…) 目を伏せた端正な顔が更に近づいて、思わず逃げ出したくなったあの衝動は忘れない。一度顔を覆って、気持ちを切り替えようとしたところで、呼ぶ声が聞こえた。 「すいません遅くなっ、て………」 トランクを開けて、後ろ向きに座るルイさんを見て唖然とする。 「な、なんで脱いでるんですか…!」 「ん?だって濡れてたし。服、乾かさないと風邪引くよ」 それはそうだけれども。惜しげもなく晒された上半身を目の当たりにして、思わず視線を泳がせる。 「こんなに濡れると思ってなかったから、着替えは用意してないけど…はい」 大きめのバスタオルを渡されて、素直に受け取った。頭を拭きながら気付く。俺よりもルイさんの服の方がずっと濡れていることに。 「…すいません、子供で」 「俺も楓くんぐらいの時はヤンチャしてたよ」 笑いながら肩を回す彼を見ていて、ある箇所に目が止まった。今俺が立っている、斜め後ろの位置からだとよく見える…肩甲骨の上あたりに散らばる赤い傷。 「ルイさん、それ――…」 怪我してますよ、と続けようとして口を噤んだ。 (違う。多分、あれは) 「あー…爪、立てるなっていつも言ってるんだけど」 案の定。困ったように吐くため息とその言葉で察した。 「…気持ち良すぎてワケ分かんなくなっちゃうみたい」 ふ、と目を細めて笑う彼は。 俺の友達である前に、やっぱりホストなんだと。 改めて確認させられた。

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