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112.
何故、自分がする側だと思ったのかは分からない。けれど、漠然とそう思った。
「あれ、してくれるんだ?」
期待に満ちた目で見つめられて、そういうつもりじゃない、とも言えず。
「…わ、わかりました!やりますよ…っ!」
ぱかりと開けられた口に卵焼きを放り込んで、すぐ自分の弁当に向き直る。
「何かちょっと違う気もするけど…うん、美味しい」
穏やかな声に黙って頷く。今は顔を見られそうにない。温かい視線に少し居心地の悪さを感じつつ、海を見ながらひたすらおかずを口に運んだ。
「もう乾くなんて、まだまだ夏日ですね」
少し潮の匂いがするシャツを羽織り、再び浜辺まで降りてきた。
陽がオレンジに変わり、ゆっくり地平線に近づくのを眺める。聞こえるのは波の音とカモメの声、夕焼け色が海面で砕けて四方に散る様子は例えようもなく美しい。
「一緒に来てくれてありがとう」
隣を見れば、緩やかに弧を描く瞳とぶつかった。全てがオレンジ色に染まったこの世界で、彼の双眸も例外ではなくて。
「…ルイさんと来られて良かったです」
思ったままを伝えれば、するりと頬を撫でられ。きっと女の子の誰もが憧れる情景だ、と。やけにふわふわした頭で考える。
「あのさ…楓くん。2人の時は、本当の名前で呼んでほしいな」
乞い願うような響きに一度瞬きをして。頬を覆う手のひらに、自らのそれを重ねた。
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