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113.
重なる手のひらが予想よりも熱くて、僅かに震えた。
軽く目を伏せた彼が深呼吸するのを見守る。何度か口を開きかけては閉じ、逡巡している様子。
それでも辛抱強く待っていると。
「………みつい、さん」
どくり、と心臓が跳ねた。窺うようにこちらを見つめる瞳はどこまでも澄んでいて。
「結構、照れますね…これ」
恥ずかしそうに笑って、両手で剥がした俺の手のひらを包み直す。はにかんだ頬に差す朱は、きっと夕陽のせいだけじゃない。
(天使か………)
表情筋が頑張ってくれている内に、急いで心を鎮める。穏やかな波を見て必死に邪念を振り払おうとするも、触れている手のひらがどうしても気になってしまう。
「三井さん、」
「…うん?」
手元に落ちていた視線が、ぱっと上げられる。
「ちょっと慣れておこうと思って…練習です」
こんな天使を目の前にして我慢できるわけがない。反対の手で頭を撫でた。そりゃもう気が済むまで長々と。
あのままだと何をしでかすか分からない、なんて。そんな自分に苦笑しつつ。
そろそろ戻ろうと彼を促し、車へ向かう途中。
「今度は俺の行きつけの店、連れて行ってあげるよ」
「本当ですか?楽しみにしてますね」
"次の約束"で口元を綻ばせる姿に、心が温まるのを感じる。彼と居るだけで、俺はこんなにも幸せだ。
帰りの車はできるだけゆっくり走らせようと心に決めて、エンジンをかけた。
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