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約束の日。辺りが少し暗くなってきた頃、指定された場所に辿りついた。スマホと目の前のビルを見比べて、首を傾げる。 (看板とか、ないけど…合ってるのか…?) 待ち合わせの時間にはまだ少し余裕がある。中に入るのも躊躇われて、そのまま待つことにした。 「ごめん、待たせたかな」 ほどなくして現れたルイさん――いや、三井さん。 あれからしばらくの間、心の中ではルイさんと呼んでいたのだけれど。電話のたびについうっかり口にしてしまい。 悲しそうな様子の彼に申し訳なさを感じて、それからは心の中でも本名で呼ぶように心掛けている。 隣を歩くこの人はそんな変化に気付いていないだろうと、細く息を吐いた。 「はい、この先がお店です」 指し示されたのは、無機質な鋼鉄の扉。半信半疑で後をついて行くと。 「えっ……」 一歩足を踏み出せば、そこは落ち着いた雰囲気の料亭。オレンジ色の柔らかい照明が随所の飾りを照らしている。"豪奢"を全面に押し出さないそれは、しかし全体的な華やかさを醸し出していて。 「奥の部屋、取ってあるから」 選ぶ店さえもレベルが違うのかと、唖然。上品に会釈する店員さんの背後にはいくつも個室が(しつら)えられていて。 「ここ、紹介制だから限られた人しか入れないんだ」 案内された個室は、掘りごたつ式のテーブルに座布団が3枚。2枚並べられたうちの片方に座った三井さんが、慣れた様子で注文するのを眺める。 優雅な所作で腰を折った店員さんが去り、襖が閉められてようやく肩の力が抜けた。 「す…っごいですね」 「あんまりこういう所には来ない?」 問われてこくこくと頷く。穏やかに笑う彼が渡してくれた温かいおしぼりを手に取った。 「…今日は、会わせたい人がいるんだ」

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